『ブレードランナー』の原作者フィリップ・K・ディックの書簡

1981年、原作者フィリップ・K・ディックが、『ブレードランナー』の製作者、ラッド・カンパニーのジェフ・ウォーカーに宛てた書簡。

親愛なるジェフ、

今晩たまたま、チャンネル7で”Hooray For Hollywood”を見たよ。『ブレードランナー』の映像も出てきた(正直に言えば「たまたま」じゃなくて、知り合いが『ブレードランナー』も取り上げられるから見ろよ」って教えてくれたんだけど)。ジェフ、見終わって、特にハリソン・フォードが映画について語るのを聴き終わって、僕はこの結論に至った。これはSFじゃない。これはファンタジーじゃない。まさしくハリソン・フォードが言ったように「未来観」なんだ。『ブレードランナー』の衝撃はあらゆる分野に行き渡るだろう。一般の人にもモノを創り出す人々にも。そして、僕は信じるんだが、特にSFの分野に生きてる人にもね。30年間、SFを書いてそれを売ってきた僕にとっては、これは何かしら大切なことなんだ。本当に正直に言わなくちゃいけないけど、ここ数年、我々のジャンルは徐々に、そして着実に劣化してきている。個々人としても、集団としても、『ブレードランナー』に匹敵するような何かを成せていない。現実逃避的ではなく、勇気ある、細部まで行き届いた、本物の、憎らしいくらい説得力のあるスーパー・リアリズムだ。TVのあの部分を見ていて、僕は最近の自分が持ってた「リアリティ」が色あせて見えるのを感じた。僕が言ってるのは、君がまとめあげたこの作品は、これまでこの世にはなかった、オリジナルな新しいヴィジュアルの形、芸術的な表現を生み出したということなんだ。そして僕は思う。『ブレードランナー』は僕たちの概念に革命を起こすだろうと。SFとはどういうものであるか、いやそれ以上に、どういうものたり得るか、という概念に。

こんな風にまとめさせてもらうよ。SFは緩やかに、そして避けがたく、モノトーンの死に向かっていた。お互いをパクったような古くさいものばかりになっていた。突然、君たちのような人がやってきた。今我々と共にある、最高に才能ある人たちが。そして、今、僕たちは新しい人生、新しいスタートを手に入れたんだ。『ブレードランナー』プロジェクトにおける僕の役割について言えることといえば、僕の原作や僕のアイデアがあれほどの素晴らしい次元にまで昇華するなんて思ってもいなかった、ということだ。僕の人生と創造的な仕事は『ブレードランナー』によって正当化され、完成した。ありがとう……そしてこれはとんでもない商業的成功を収めるだろう。無敵であることを証明するだろう。

心から、

フィリップ・K・ディック