現代の大学生における自己愛の病理

現代の大学生における自己愛の病理
生地 新

心身医・2000 年3 月・第40 巻第3 号
〔抄録〕
大学の保健管理センターに来談する学生たちの中で, 自己愛の病理が周題となるケースが増えてきたという印象がある. 典型的なケースは自己愛人格障害であるが, 摂食障害, スチューデント・アパシ一などでも理想化された自己像が問題となることがある. 彼らの万能で尊大な自己像の背後に, 傷ついた無力な自己像が隠されている. 今回は, 摂食障害の女子学生と自己愛人格障害の男子学生の症例を検討し, その自己愛の病理を明らかにし, 精神分析的精神療法の立場から考察した. 自己愛の病理を示す例の個人精神療法においては, 初期には穏やかな陽性転移を維持し理想化を引き受け, その後, 自己愛的な自己像を明らかにし, それを徐々に手放し現実的努力によって自尊心を向上させる方向へ導くという手順が有効と思われる.
■ Keywords : 自己愛, 精神病理, 精神療法, 摂食障害, 学生

はじめに

わが国で大学生のメンタルヘルス上の問題が注
目を浴びるようになったのは, 1971年に笠原1)が
スチューデント・アパシーという概念を紹介した
ことが一つのきっかけと考えられる. それ以前に
も大学生の自殺や無気力などのメンタルヘルス上
の問題は存在したが, 学生の内面の問題が注目さ
れるようになった背景には, この時期が学園紛争
や全共闘運動が終焉した時期であったということ
が関係していたと思われる. 政治の季節が終わり,
目的を見失った若者の姿の典型として, スチュー
デント・アパシーという概念は, 大学の保健管理
センターや学生相談室を中心に広く受け入れられ
た. それから四半世紀の時が過ぎ, 現代の大学生
の特徴を端的に表すキーワードがあるとしたら,
それは「自己愛的」という言葉ではないかと著者
は考えている. 著者が大学の保健管理センターで
非常勤の学校医として仕事をするようになって7
年になるが, その短い間でも, 学生たちの悩み方
がかなり違ってきたという印象をもっている. そ
の印象の中心は「自己愛的」ということである.
かつてのスチューデント・アパシーも遡ってみれ
ば自己愛の問題をはらんでいたといえるが, 最近
来談する学生の多くは, 他者の存在を実感できず,
自己愛的な空想の世界を生きているようにみえ
る. 本稿では, そうした学生の臨床例を示し, 治
療的な対応の仕方について考察したいと考えてい
る.

山形大学におけるメンタルヘルス活動の概要

著者の, 学生のメンタルヘルスに関する活動の
場である山形大学保健管理センターについて簡単
に述べる。当センターは, 常勤のスタッフは内科
医1 名, 臨床心理± 1 名, 看護婦3 名, 事務官2 名
という体制である。メンタルヘルスに主に関わっ
ているのは, 常勤の臨床心理士と, 嘱託の臨床心
理士 1 名, 精神科の学校医2 名である. 精神科の
学校医はそれぞれ月1 回センターに出向くだけ
で, その間に精神科医による対応が必要な時は,
山形大学の附属病院に直接連絡がある. メンタル
ヘルス関係のマネジメントは, 常勤の臨床心理士
が一手に引き受けているという状況である. 新入
生に対しては, 心身の自覚症状をチェックする健
康調査を行い, その調査で精神的な健康面の相談
を希望する学生には, 5~ 6 月にかけて臨床心理士
または精神科医による面接を施行している. 心身
医学的には. 所長である常勤の内科医や精神科医
以外の学校医との連携が今後の課題と思われる.
メンタルヘルスに関わる自発相談は, 平成9 年度
では年間75 名で, 男性が44 名, 女性が31 名で
あった. 学部別・性別の内訳は, 表1 に示したとお
りである. この数字には前年度からの継続のケー
スも含まれており, 新規のケースはもっと少ない.
新規のケースは, 年間約40 件で, そのうち精神科
医に依頼されるのは約10 件である.
平成9 年度の相談例のうち, 医学的な診断がな
された例の診断名の内訳を表2 に示したが, 神経
症が最も多く, 精神分裂病, 摂食障害, 境界型人
格障害という順で, 狭い意味の自己愛型人格障害
は1 例のみである. ただし, このような医学的な
疾患分類とは別に, 自己愛の病理が問題となる
ケースはもっと多いと思われる. 具体的には, 摂
食障害, 境界型人格障害, いわゆるスチューデン
ト・アパシーなどのケースでも, 自己についての
自己愛的空想や自己愛的な性格傾向が問題となる
ことは少なくないと思われる.

症例
【症例A 】神経性食欲不振症. 女性, 初診時年齢
18 歳
実家の家族構成: 母方祖母, 父母, 年子の妹, 5 歳
下の妹の6 人家族である.
生育歴: 幼少時は, 主に母親が養育していたが,
仕事に出ている時は祖母が世話したということで
ある. 母親の記憶によれば, 幼少時の発育・発達
には特記すべきことはなかったという. また, 小
中学校の頃は, 自己主張は少ないが, 頑張り屋で
几帳面・完全主義の傾向もあったという. この頃,
父親の勧めで柔道を習っていた. 「父の期待に応え
られるような男の子になりたいという願望を小学
生の頃から抱いていた」と患者は治療の中で述べ
たことがある. 母親からの情報によれば, 中学生
の頃に, 家族外の信頼していた男性に体を触られ
るという性的な外傷体験があったという.
現病歴: 高校2 年生の頃, 学校で食品添加物の
研究をした頃から, 食べ物の成分が気になるよう
になり, 食事量が減少した. 睡眠時間を減らして
勉強したり, 自衛官になるという目標を立ててい
たが, 体重は35 k g まで減少してしまった. このた
め, B 病院婦人科を受診し短期間入院した. 退院
後また体重減少し, 6 ヵ月後にC 病院神経科に入
院し, 4 ヵ月で体重回復し退院した. しかし, 再び
体重減少し, 大学受験後, 再入院した. 経口栄養
剤とI V H で体重回復したため1 ヵ月で退院とな
り, 進学のため大学の保健管理センターとD 病院.
精神科に紹介された.
治療経過: D 病院には2 週に1 回外来通院し,
何とか体重は維持していたが, 急なキャンセルが
多く, 1 年後, 無断キャンセルの後に連絡がなく治
療中断した. その後, 実家に帰省した時にはC 病
院に通院していたが, 19 歳3 ヵ月で体重が30 k g
まで減少して, C 病院に1 ヵ月入院後, D 病院から
の通学を目的に転院となった.
転院後, 一時体重2 5 k g まで減少し, 中心静脈栄
養施行後, 身体的な看護を受けている過程で経口
摂取が可能となった. その後退院し, 保健管理セ
ンターと大学病院で面接している.
入院中と退院後の精神療法の中で, 次第にA の
理想化された誇大な自己イメージが明らかになっ
た. たとえば, 「自分は完璧な正しい人間だと思っ
ていた」「やせていることで人にない優れたものを
もっていると感じられる」「自分は自分も他人も完
全にコントロールできると感じていた」といった
ことが語られた. 治療が進展する中で, 「今まで周
囲の人を自分の思うように動かせると思ってきた
けど, 先生は違う」ということを語るようになっ
た. 退院の2 ヵ月後の面接では, 「自分は自分の醜
いところを見ないようにしてきた. 悪いことをし
ても観念で処理して何も感じないできた」「自分の
中に膿がたまっているように感じてつらい」と
語った. 気分が落ち込むことも増えてきたが, そ
の一方で生きているという実感が少しずつ感じら
れるようになったと言うようになり, 面接をキャ
ンセルすることも少なくなった.
治療の中では, A の自己愛的な自己イメージを
理解し, それを壊してしまう不安に共感しながら
も, そのような自己イメージが現実の世界で人と
触れあうことや自分の能力を高めることを邪魔し
てしまっていることも繰り返し指摘した. 現在は,
無力な自分, 自分の中の悪ということに少しずつ
直面できるようになっている.

【症例B 】自己愛人格障害. 男性, 来談時20 歳
実家の家族構成: 父方祖父母, 父母, 妹1 人の6
人家族である.
生育歴: B からの情報によれば, 幼少時は主に
母親が養育していたが, 仕事に出ている時は祖父
母がみていた. 幼少時の発育や知的発達には特記
すべき問題はなかったらしいという. しかし, 幼
児期から嫁姑の問題などで母親が精神的に不安定
であったようである. 母親はB に八つ当たりする
ようなことも多かったという. このため, 小学校
中学年の頃からB は親, 特に母親に反抗的になっ
ていた. 中学・高校時代は成績も良く, スポーツ
も万能なために, 学校での評価は高く楽しかった
と本人は回想した. また, 中学の頃から女子にも
てたということである.
現病歴: 大学は, 何となく決めたが, 入ってみて
がっかりしたという. 入学してからサークルで知
り合った女性と交際するようになり, 同棲に近い
生活をしていたが, 2 年の冬に感情の行き違いが
増えてきて別れた. B は, 関係をとり戻そうとし
たが拒否された. このため, 抑うつ的となり死に
たい気持ちも強くなって, 保健管理センターに来
談した. そして, 臨床心理士のカウンセリングを
受けていた.
治療経過: 保健管理センターに来談した1 年
後, 精神科の学校医から抗うつ薬の投薬と隔週1
回の支持的精神療法を受けるようになっている.
その頃は, 別の女性と交際を始めていたが, 前の
女性のことが今でも頭にあること, 性的な関係が
あっても, 自分の内面をみせることにためらいが
あり, 安定した関係にならないことが話題の中心
であった. その1 年後から現在まで1 年間, 週1 回
の精神分析的精神療法を受けており, うつ状態に
なることはなくなり, 現在の交際相手との関係も
比較的安定しているが, 「体験をダイレクトに感じ
取れない」「自分のことを笑い話にしてしまう」と
いうことが治療の中心テーマになっている.
この学生の診断は, 自己愛型人格障害としたが,
参考までにアメリカの精神医学会の診断基準であ
るD SM -IV の基準を表3に示す. 診断基準だけ読
むと, こんな人がいたらとてもいやな人物だと誰
もが思うかもしれない. しかし現実のB は, 人
当たりはよく, 感じのよい青年といえる.
この学生の精神療法の過程での自己愛に関連す

表3 自己愛型人格障害の診断基準(DSM -IV)
301.81自己愛型人格障害
誇大性, 賞賛されたいという欲求, 共感の欠如の
広範な様式で, 成人早期に始まり, 種々の状況で明
らかになる.
以下のうちの5 つまたはそれ以上で示される.
1 . 自己の重要性に関する誇大な感覚
2 . 限りない成功, 権力, 才気, 美しさ, あるいは
理想的な愛の空想にとらわれている
3 . 自分が特別であり, 独特であり, 他の特別な地
位の高い人たちにしか理解されない, または関
係があるべきだと信じている
4 . 過剰な賞賛を求める
5 . 特権意識, つまり, 特別有利な取り計らい, ま
たは自分の期待に自動的に従うことを理由なく
期待する
6 . 対人関係で相手を不当に利用する
7 . 共感の欠如
8 . しばしば他人に嫉妬する, または他人が自分に
嫉妬していると思いこむ
9 . 尊大で傲慢な行動, または態度

る発言の例を列挙する. 最初の頃は「みんな馬鹿
にみえてしまいます」「僕は何をやっても許される
と思っていました」などと言っていた. 最近は,
「ジコチュー( 自己中心) とサービス精神とあるん
ですけど. なんか, 一人だけ高みにいるような感
じがあるんですね」「人がつまらない優越感にひ
たっているのをみると馬鹿にしたくなる. でも,
そういう自分に気がつくとむなしくなる」「僕は,
体験をのみ込みやすく加工してしまうんです. 独
我論のままというか」といった発言が聞かれるよ
うになった. まだ, 自分の感情を直接感じること
を避けて斜めに構える態度は, 大きくは変化して
いない. しかし, 夢の報告などを通じて自分の中
の「どろどろしたもの」を直視しようとする態度
も育ってきている.

考察

1.症例の精神病理について
A は, 小さい頃, 母親に素直に甘えたという記
憶がないという. 母親自身, 「自分の母親としっく
りいかなくて家から離れたかったが, 結局家の跡
を継ぐことになってしまった. それで自分の母親
との問題に気を取られて, この子に注意が向いて
いなかったかもしれない」と回想している. 母親
自身が青年期的な葛藤から抜け出せずにいて, 自
分を家に縛りつける存在である娘をあまりかわい
いと思えなかったようである. A には, 女は弱い
というイメージがあって, 母親を内心軽蔑し, 父
親に同一化しようとしてきたと考えられる. しか
し, 第二次性徴の発現や性的外傷体験によって,
父親への同一化が困難になった時期に発症してい
る. つまり, 彼女は女性としての自分には価値が
ないと感じることを回避するために, 「やせていて
完璧な強い自分」という理想化された自己イメー
ジをつくるために減食したと考えられる. そして,
その自己イメージを守ろうとして, 治療的な働き
かけに強い抵抗が働いたようである.
B は, 幼少期に母親が不安定であったために,
母親への甘えの感情を隔離してしまい, 怒りも他
の女性に甘え利用することで中和していたようで
ある. そして, 男性である父親を同一化すること
ができず, それでいて自分の無力感を否認し, 自
己愛的な自己像を維持していたと考えられる. そ
して, 本気で交際していた女子学生が離れた時点
で, 自分の中の無力感や低い自己評価が露呈し抑
うつ状態になったと考えられる. その後, 支持的
なカウンセリングでうつ状態からは回復したが,
何でも知性化したり笑い話にして, 優越感を保ち,
他者と深い情緒的交流ができない状態で安定して
いたのだと思われる。B の治療では, 治療者側の
自己愛的な逆転移も治療の進展を妨害したと思わ
れる. その逆転移は, 知性化された話題にのって
しまうこと, 優越感を共有してしまうこと, 話を
面白がってしまい背後にある深い無力感や怒りに
気づかないこと, などの治療者の態度に示されて
いる. このような逆転移に気づき, 誠実に傾聴を
続けることで変化が起きつつあると思われる.
これらの症例で明らかになったように, 万能感
に満ちた尊大な自己像のさらに背後に, 傷つき無
力な自己像が隠されていることが多いものであ
る. そして, そのマイナスの自己像は, ありのま
まの自分が受けとめられ見守られているという感
覚, つまり「甘え」の感覚の乏しさと関連してい
ると著者は考えている.

2.自己愛的な病理の増加の背景について
このような自己愛的な青年の増加は, 親の養育
態度や子育て文化の変化や科学技術の進歩に伴う
錯覚, 子どもを取り巻く社会の価値の変化などが
関係していると著者は考えている. 現代の日本の
社会では, 子どもたちは, 身体を通じた手触りの
ある体験や規範や伝統を伝えられるよりも, 親の
自己愛の延長として期待され, 「過保護に」育てら
れる傾向があるように思われる. 少子化がこの傾
向を助長しているとも思われる. そして, 科学技
術の進歩やエンターテイメント産業の肥大化は,
子どもたちから「歯ごたえ・手触り」の体験を奪
い, バーチャル・リアリティの体験ばかり提供し
ている. 幼児期からテレビゲームやビデオが当た
り前のものとして普及したのは, 今の大学生の年
代からである. その一方で, 微妙な「甘え」を察
知し合う文化が過去のものになりつつあるという
ことも, 自己愛の病理の増加に関係があるだろう.
現代の親子関係は, ひどくべったりした相互依存
関係か, ものを介した情緒に欠けた関係が多く
なってきているようにも思われる. こうした状況
の中で, 子どもたちは自己愛的な空想の世界に閉
じこもるようになっているようにみえる.

3.自己愛と身体
心身医学の臨床においては, 著者は, 自己愛の
対象あるいは自己愛の住みかとしての身体という
観点が重要だと考えている. 単純化していうなら
ば, 各疾患における身体に関連する自己愛の病理
は次のようにまとめられると考えられる. 摂食障
害では「完璧にコントロールされた美しい身体に
なり続けたい」という願望が病気の背後にある.
また, 醜貌恐怖では「整形して美しい容姿になれ
ばすべては解決する」 という思いこみが, 自己愛
型人格障害では「自分は美しい容姿・身体をもっ
ている」という過剰な自信が, 同性愛では「理想
の同性の身体と一体化したい」という願望がある
と思われる. もちろん, 他の神経症や心身症の背
景にも自己愛の問題が隠れていることもある. 治
療に抵抗する患者の場合, 自己愛という問題も念
頭に置くとよいと思われる. 有名なA 型行動パ
ターンも自己愛的な傾向に関連しているといって
よいだろう. 見方を変えれば, 自己愛的であるこ
とは, むしろ現代社会では適応的であり, 現代青
年の多くに共通した心理ともいえるだろう. そし
て, むしろ自己愛的な生き方が破綻した人が, 抑
うつや心気症, 心身症に陥りわれわれのもとに
やってくるという考え方も成り立つかもしれな
い.

4.自己愛の病理への対処の仕方について
現代の精神分析の世界では, いくつかの自己愛
の捉え方がある. Kohutは, 自己対象転移の理解
や共感の重要性を強調した. Kernbergは, 明確化
と直面化を技法の中心とし, 原始的防衛機制の解
釈を重視した. イギリスのクライン派のSteiner
は, 患者が逃げ場としている自己愛的な空間とし
てのPsychic Retreats の取り扱いを重視した. い
ずれにしても, 技法的には, 基本的には解釈が中
心と思われる.
著者自身もこのような精神分析のさまざまな理
論の影響を受けながら, 自己愛的な青年に対処し
てきた. そして現在の著者のこのような自己愛的
な症例に対する治療指針を述べておきたい. これ
は, あくまで試案であり, さらに推敲が必要と思
われる.
まず, 自己愛的な抵抗の丁寧な取り扱いと一貫
した誠実な態度が大切である. 具体的には, 問題
が起こるつど, 詳細に検討して本人にその問題を
フィードバックすること, 知性化・否認など治療
を無力化する自己愛的な態度を柔らかに指摘する
こと, 自己愛的な空想の内容を明らかにし, さら
に空想のもつプラスの機能と発達阻害の側面の両
面を指摘すること, 自己愛的な態度の背後の無力
感・怒り・抑うつに共感すること, 自己愛的な抵
抗や空想の由来についての解釈をすること, 自己
愛的逆転移を自覚することなどが, 技法上重要だ
と思われる.
しかし, 時にはより積極的な教育的な態度も必
要になると著者は考えている. つまり, より適応
的な目標(夢) ・適応的な思考方法を学習するよう
に援助する必要性もあると考えている. そのよう
な介入を通じて, 著者は, Winicottのいう「空想
すること(fantasying)」から「夢見ること(dreaming)」
への移行が進むと考えている.
具体的には, 知性化・空想から現実的な達成感
の獲得方法の模索の援助をすること, 現実的な行
動の奨励(正常な食習慣・登校・アルバイト・人
づきあい・おしゃれ) , 成熟した対象関係・真剣に
問題に取り組む態度のモデルを提示すること(治
療者自身がそのモデルになることも多い) , などが
技法上重要だと思われる.

おわりに
現代の青年にとって, 悩むこと, 自分の内面を
みることは格好悪いことであり, 自己愛的な自己
像を脅かされることを嫌がる. そして, 変化への
強い抵抗を示す. このような青年が心身症の仮面
をかぶってわれわれのもとにやってくることはま
れなことではない. そのような症例で, 根気強い
丁寧な精神療法以外には反応しないことかあると
著者は思っている. 最近の精神療法の流行は, 短
期間の開題解決指向の方法だと思われるが, そう
した技法で対処できない問題もあることを知って
おくことは重要である. 最も大切なことは, どん
な技法であれ, 治療をする人が自己愛的になりす
ぎないことであろう.

文献
1) 笠原嘉: 大学生に見られる特有の無気力につ
いてー長期留年者の研究のために. 全国大学保
健管理協会誌7 : 6 4 , 1971
2) 高橋三郎, 大野裕, 染矢俊幸(訳) : DSM -IV
精神疾患の分類と診断の手引. 医学書院, 1995
3)Kohut H:The psychoanalytic treatment of
narcissistic personality disorders.,1968
4)Kernberg O:Borderline conditions and path-
ological narcissism.Jason Aronson,New
York,1975
5)Steiner J:Psychic retreats:Pathological
organization in psychotic,neurotic and
borderline patients.Tavistock,London,1993
3)Winicott DW:Playing and reality.Tavistock,
London,pp31-43,1971