16-2 ラモトリギン(ラミクタール)

16-2 ラモトリギン(ラミクタール)

新規抗てんかん薬の中で一番良く研究されているのがラモトリギンです。
FDAの適応として、双極Ⅰ型での気分エピソードの再燃を遅らせることが認められています。
双極Ⅱ型の場合はFDAは適応を認めていないんです。もちろん、多くの人が双極Ⅱ型にも効くと信じていますが。
双極性障害の他のどの局面でも効果が無いことが証明されています(つまり、急性うつ病、急性躁病/混合エピソード、ラビット・サイクリング)。

16-2-1 ラモトリギンの薬理学的特性

ラモトリギンの生理学的効果は、グルタミン酸やアスパラギン酸のような、興奮性アミノ酸神経伝達物質のシナプス前放出を阻害することで発揮されている。つまり、興奮を抑える薬ですね。
この効果がラモトリギンの向精神特性を一部説明し、一部説明しない。
ラモトリギンは肝臓で代謝される。そしてタンパク質に中等度結合している(50%以上)。
半減期は25時間、したがって単純な一日一回投与が可能です。
患者の中にはラモトリギンを軽度に刺激的と感じる人がいますので、私はだいたい一日一回服用を勧めています。
Divalproex は肝臓のグルクロン酸抱合でラモトリギンと競合します。
Divalproex はラモトリギンの代謝を阻害しますから、併用で半減期が60時間に延びます。
一方、カルバマゼピンやフェニトイン、プリミドンは、ラモトリギンの代謝を促進しますので、併用した時には、半減期は15時間になります。
バルプロ酸と併用すると、ラモトリギンの半減期が顕著に延びるので、ラモトリギン使用量は半分でいいわけです。
双極性障害の場合の投与量は以下で詳論しますが、有効性は50-200mg/日の範囲です。
しかし最大投与量は500mg/日以上です。
「決して」25mg/日以上に急速に増量してはいけない。重篤な発疹のリスクがある(以下で説明)。

私は200mg/日以上は投与しない。
これ以上投与しても利益が増えるというエビデンスがないことが主な理由である。
ある予防効果研究で200mg/日と400mg/日は同じだった。
さらに、発疹のリスクは増量している限り、最大である。
したがって、量を多くしようと思えば、リスク期間が長くなってしまう。
だから200でやめておいても充分だと思う。

最後に一言すると、私はいくつかの症例で、ラモトリギンの認知面に対しての副作用を観察したし、躁病の誘発も経験した。どれも400㎎/日程度の高めの量であった。

16-2-2 副作用と発疹

ラモトリギンで起こる副作用はまれであるし、起こったとしても多くは軽度である。
副作用としては頭痛、振戦、眠気、めまい。
臨床的に統計を取ると、双極性障害の患者でラモトリギンを中止したのはたった2%。理由は副作用。
しかしながら、10-20%では通常型の重篤でないタイプの発疹が出る。
FDAは、発疹が出たらラモトリギンは中止と勧告しているが、それは発疹が進行して、まれであるが、死に至る可能性のあるスティーブンス・ジョンソン症候群になることがあるからだ。

スティーブンス・ジョンソン症候群は重症の発疹で、重症のやけどに等しい体験をする。
患者の多くは最近の重複感染症で死亡する。
生きのびても後遺症が残る。
重症なのは明らかであるが、スティーブンス・ジョンソン症候群はまれであり、ほとんどはラモトリギンの急速増量に関係している。
1990年代のはじめの頃、ラモトリギンの最初の大規模臨床試験が行われたが、スティーブンス・ジョンソン症候群は成人の1000人に1人、児童思春期の1000人に4人で見られた。
結果として、ラモトリギンは15歳以下ではてんかん以外では認可されなかった。
前述の発生率は比較的急速に増量した場合に観察された。

●キーポイント●————————————-
薬剤増量を抑制して、現在の推奨である、25㎎/weekとすれば、スティーブンス・ジョンソン症候群の発生率は約6000人に1人まで低下する。これは、たとえばカルバマゼピンのような、この症状を引き起こす可能性のある薬剤で報告された数字に近い。【begins??】
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バルプロ酸とラモトリギンの併用はこの非重篤型発疹の発生率を高くし、発疹が重篤型になる可能性を高くする。
私が勧めたいのは、通常のコンサバスタイルの臨床では、危険因子のない普通の人では、25㎎/weekで増量する。
発疹の危険のある患者では12.5㎎/weekで増量する。
目標量は100-200㎎/日で、2-3ヶ月かける。
このゆっくりした増量で外来患者のうつ病治療と気分エピソードの予防にはたいてい充分である。

私の考えでは、発疹の最も重要な危険要因は、他の薬で起こっているアレルギーであり、特に抗生剤アレルギーである。
製薬会社のデータによれば、ラモトリギンに伴う発疹リスクは、抗生剤アレルギーを持つ人で4-5倍に増える。
私の法医学方面の経験では、ラモトリギンに伴うスティーブンス・ジョンソン症候群は、抗生剤アレルギーを持つ人に多い傾向がある。
他の危険因子としては、免疫学的反応性を暗示していると思うのだが、気管支喘息、自己免疫疾患、枯草熱、アレルギー性鼻炎、食物アレルギーがある。
そうした患者では、私はラモトリギンは回避するか、または、12.5mg/week増量を自動的に開始するかのいずれかである。
このアプローチでは効果はゆっくりで時間がかかる。しかし私はこの方法を使って、カルバマゼピンを使う時と同じ程度に快適にラモトリギンを使えるようになった。重篤になるかもしれない発疹のせいでラモトリギン使用を恐れている医師は、ここで紹介したようなコンサバスタイルの増量法でもっと快適にラモトリギンを使えるようになるはずである。
ゆっくり増量すれば重症発疹のリスクは著しく下げられることを指摘して患者に納得してもらえば、患者の不安もまた軽減される。
また、重症の発疹リスクは治療の最初の数カ月で最も高いように見える。
長期予防のためにラモトリギンを使い、一旦安定量に達した患者では、もはや重症発疹のリスクは高くないと考えられる。

●キーポイント●————————————-
他の薬剤アレルギーがないか、常に尋ねたほうがいい。特に抗生剤アレルギーについて。それはラモトリギンによる発疹のリスクを何倍にもする。そのようなケースでは、ラモトリギンを使わないことにするか、または、治療選択肢の下の方に移動してしまうかだろう。そして、もし使うとすれば、12.5㎎/weekの増量で処方する。自己免疫性疾患のある人は、私の診療では、ラモトリギンは全く使わない。
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リチウムと同様で、ラモトリギン有効性を支持する多くのエビデンスがあるので、医師は副作用をコントロールして患者を安心させる事が大切である。
そうすればこの薬は効果を発揮して、患者は利益を得る。
患者への説明は次のようになる。
「これはとてもよく効く薬です。副作用は短期、長期ともにほとんどありません。
ただ、発疹が出て重症になる可能性があります。
ですから、とてもゆっくり増量していって、発疹の可能性を減らすようにします。
重症ではない発疹が10-20%に発生するようです。
しかしそのほかは副作用もなく続けやすい薬です。」

しかし、ラモトリギンには小さいが現実的な致死性のリスクがあるのだから、医師が考えもなしにラモトリギンを単純に処方するのは考えものである。
患者にはまた、「決して自分で勝手に服薬量を増やさないように」、明白に注意深く伝えること。
患者の中には、アンフェタミンのように量を増やせばすぐに効き目が増えるような薬を使いなれていることもある。
きちんと教育して、ラモトリギンの場合には、量の調整が、文字通り、生死の問題なのだと理解してもらう。