ブリジストン美術館でいつものように
セザンヌの山を見る
ふるさとの街で
見上げるといつも山があった
大きな山ではないが
近くの山なので
輪郭はくっきりとして
季節の変化もよく見えた
小学6年生の時
はじめてカメラを手にして
雪で白い山を撮影した
もう10年も見続けていた山が
格別の美しさで輝いていた
セザンヌの山に神話はなく
その山は現在と連続し今と連続している
生活の延長である
それでいいのだ
神話ではなく生活を輝かせよう
その日花嫁は
美しく、緊張して、しかし幸せに満ちて、
人生の中で一番大切な約束をした
この神聖な気持を折にふれて思いだそう
窓を開けて山を見るたび
誓いと幸福と神聖さを思い出し
もう一度それを吸い込もう
いまの人生のこの雫をもう一度味わおう
セザンヌはサン・ヴィクトワールを何度も飽きずに描いている
結婚生活はそのようなものだ
なんど見てもいいものだ
日々いいものだ
ただの繰り返しがある日突然
映画の一場面のように輝く
その突然の訪れを
とても自然な気持ちで受け入れて
当然のように忘れてゆくのだ
そしてまたある日天啓のように思い出す
この山のこの形とこの色彩を
天啓のもたらすものは
しかし
ただいつもと同じ
この山である